京都
ササユリの軌跡−京都市右京区等−
 野山からササユリが消えて久しくなった。雑木林の柴がカマドの焚きつけにされ、林床が毎年更新される里山に季節になるときまってササユリがそよぐ風景があった。梅雨入り前後の6月半ばころ、周りの笹や柴を支えにして、うっすらとピンクに化粧したササユリを見ると、何とも言えない佳境を感じたものだ。ササユリは季節の花としてその昔には玄関に飾ったり供花にする者もいたが、ごくありふれた花であった。腰が弱く切り花として花屋が扱うような商品ではなかった。やはり野においてこそ映える花であった。
 露月の句に‘百合を折る一時の興や峠越え’とある。手折ったその清楚な花姿に旅人はほっとしたひと時を過ごしたに違いない。しかしササユリは、平生、笹などに茎を支えられ咲く花であるため物陰に見え隠れして余り目立たない花。万葉集や新古今和歌集などにそれとわかる歌がないのもそうしたササユリ特有の開花の環境によるものだろう。
 近年、農山村の生活様式の変化から里山の環境が変わり、昔咲いていた山道などでササユリを見かけなくなった。しかし、ササユリは適地を求め、思いもよらない場所でちゃっかり咲いていたりする。本年6月の中下旬のころ、奈良県の吉野(奈良県吉野郡黒滝村)や宇陀高原(奈良県山辺郡山添村)、信楽高原(滋賀県甲賀市信楽町、京都府相楽郡南山城村)、丹波高原(京都市右京区西部地区)、金胎寺山麓(京都府綴喜郡宇治田原町、京都府相楽郡和束町)などでササユリを見かけた。水田・茶畑と山林の端境などに棲息地を見出し笹や柴を支えにして咲いている。宇治田原や山添村ではずいぶん濃密に分布する地区もある。その植生はむしろ露月のうたう峠の近くではなく里にかなり迫っているようにも思われる。手入れが行き届き、毎年笹などの下草が生え出る水田や茶畑周りに適地を見出したといえる。
 京丹波市境の京都市右京区の某所(愛宕山西麓)では山間の無住の民家周りで咲き乱れるササユリを見かけた(写真上)。石垣と簡易舗装されたコンクリートの隙間からササユリが生え出て大輪の花を咲かせているのだ。二つ、三つつぼみをつけるたササユリは、周りに茎を支える笹などがなく重心を失い倒伏する。こころ優しい地区住民の助けを得て、ササユリは支柱にしがみつき人と共存して生きながらえている。清楚な大輪は本当に美しいものだ。
 ササユリの花期が終わり2か月ほど経つと今度はテッポウユリが丹波路を飾る。綾部市以西の丹波路でよく見かける花。品種はタカサゴテッポウユリが多い。切花として人気がある花だ。種子の飛散により繁殖域が拡大しているという。-平成22年6月-

ササユリ
京都・和束町 奈良・山添村 滋賀・信楽町
  リンク : ササユリの咲くころ ササユリの季節  三枝祭(鎮華祭)