京都
京の街角(極楽寺の大賀ハス)−綾部市白道路(はそうじ)−
はちすばや東谷山の水無月のころ <閑山>
大賀ハス(東谷山極楽寺)
 6月下旬、東谷山(極楽寺)の蓮池で大賀ハスが咲き始めた。
 極楽寺のハスは、検見川(千葉県)の地下6メートルの泥炭層から採取され発芽した大賀ハス。2000年の眠りから目覚め、毎年、大ぶりでピンク色の清楚な花をつける。花弁の条線が薄くピンクのグラデーションをなし、ビロードのような葉の表面に小さな水玉を含んで美しい。花期は6月下旬から7月。

  ハスの語源は、実が入った花托がハチの巣(ハチス)に似ているところから生じたハチスの略語であるらしい。
 万葉集 に、ハチス(バ)をうたった歌が長歌と短歌を併せ4首ある。宴会の即興にハスの葉の水玉の美しさ歌ったものや夫婦間の戯言のアイロニーとして歌ったものなどある。万葉集の詠歌が収集されたころ、まだハスの花と仏教との結びつきがそれほど意識されないまま、ハスは貴紳の邸宅やため池にごく普通に植えられていたのだろう。長歌に、「みはかしを 剣の池の 蓮(はちす)葉に たまれる水の 行方無み わがせし時に 逢ふべしと あひたる君を な寝そと 母きこせめど わが心 清隅の池の底 われは忘れじ ただに逢ふまで」(巻第12相聞歌3289)とあり、蓮葉を恋する女性の慕情にからませている。万葉集巻16には、「はちす葉は 斯くこそあるものの 意吉麻呂が 家なるものは うも(芋=サトイモ)の葉にあらし」(雑歌3826)と歌っている。どこかで立派なハスの葉をみた意吉麻呂の戯歌であろうが、この歌などはハスがすでに鑑賞の対象になっていたことを窺わせる。
 しかし、仏教文化が次第に貴族社会に浸透すると、ハスは仏陀の生誕を告げまた、仏教徒のパラダイスを示す花とするインドの民族文化の影響や、極楽浄土を蓮池と解した中国の仏教文化の影響を受け、わが国の寺院においても池を浄土にみたてハスを植えた。また中国においては、ハスを君主の花として或いは清純なものとする考え方が古来から存在した。
 このような諸外国の様々なハス文化の影響を受け、日本人の花事情も変遷を遂げた。枕草子に、「・・・妙法蓮華のたとひにも、花は仏に奉り、実は数珠につらぬき、念仏して往生極楽の縁とすればよ・・・」とつづられ、ハスはこのころには仏の花として貴族社会に定着していたようである。
 今日では、ハスの花よりも食用としてのレンコンを好む人もまた多い。栽培農家にはレンコンの穴が少なくかつ細く、根は浅くひろがり掘りやすく、収量の多いハスが重用される。観賞用のハスもまた多い。ハスといってもこれほど多種多様の品種がある植物もまた少ないだろう。−平成24年6月−