九州絶佳選
佐賀
呼子の町-唐津市呼子町-
 東松浦半島の北端に呼子よぶこという町(写真上)がある。玄界灘に突き出た半島の港町は、壱岐、対馬伝いに大陸に向かう古代の交通の要衝だった。江戸期には廻船が行き交う港町として栄えたところ。
 
近年、朝市が能登の輪島や房総の勝浦と同じように有名になり、街の朝市通りに人出るが絶える日はない。港回りではイカやカマス、アジ、イワシなどが浜風に揺れている。呼子の干物は朝市の人気商品。
 5月の節句が済むと6月は呼子の大綱引きの季節。朝市通りを過ぎると「大綱引き通り」が住宅街の真ん中を通っている。綱引きはこの通りが舞台となる。
 大綱引き(子供引き)の日、通りは子供で埋めつくされ、一本の綱が延々と住宅街に這っている。掛け声とともに一斉に綱を引く。呼子の町に綱を引く掛け声が響き、餅まきなども行われ祭りは盛大なものである。
 この地方の男児の初節句の祝いは、実に盛大なものがある。神社の秋祭りの幟ほどの大きな節句の祝い旗を家周りに何本も立てる。親戚縁者が長男男児の成長を願って贈る。幟が玄海の風をはらんで、何本も樹立する様は華やかなものである。
 今日は祭りにちなみ、港の広場に節句の祝い旗が数十本も立てられている。呼子の家々から供出されたものであろう。壮観である。
 呼子大橋を渡ると加部島。江戸期には捕鯨が行われたところ。佐用姫の伝説があり、史跡なども多いところである。今は、呼子大橋が架かり交通も至便になった。
黒髪の長さを潮風にまかし <山頭火>
 昭和7年早春、唐津から呼子に向かった山頭火はこのように詠じた。佐用姫にことよせて、めずらしく艶のある歌を詠じている。山頭火が呼子を訪れた頃にはまだ遊郭があったから、欄干にいて黒髪を潮風に任せる女性もいたのであろう。陰影のある山頭火流の哀歌であろう。−平成17年6月-