九州絶佳選
福岡
大蛇山-大牟田市-
  福岡県の南部に大牟田という有明海に面した都市がある。明治、大正、昭和と石炭の産出によって、筑豊とともに日本の産業を支え続けてきた都市だった。昭和40年代の高度成長期に石炭から石油へとエネルギー転換が進み、市内の山は閉山に至ったが、三池炭鉱は私たちの脳裏に生き続けている。宴会などでよく歌われた炭坑節は、繁栄の象徴として日本中で歌われた。 大牟田は、三池港を擁し福岡、熊本などへの地の利もよく、近代都市へと脱皮して久しいが、大蛇山の祭りの伝統は三百有余年そそままに受け継がれ、毎年盛んになってきている。
  炎天燃えるような暑さが続く盛夏のころ、市内の大正町おまつり広場で、7月23、24日の両日、大蛇山が開催された。23日は祇園六山の巡行、24日は市内外から参加した山のパレードで、広場は大勢の人出で賑わった。
  山車は、鐘、太鼓、笛の奏者が乗り込み、ゆるりとゆるり綱で引かれて進み、後方に扇子をかざした踊り子を伴うのであるが、山車の前方に巨大な蛇(龍)の頭を、後方に蛇の尾を置くところが特異である。頭と尾は人力で左右に動き、口から白煙を吐く仕掛けがある。鐘は梵鐘の小型のもの。太鼓のバチはずん胴のバチ。さらに、山車の唐破風の屋根に男子が4、5人乗り、隊列の調子を整え、隊列を鼓舞しながら進む。岸和田のだんじりのように屋根上で、団扇を両手にして舞い踊ることはない。このような大蛇山が標準的であるが、屋根の搭乗者の持ち物は高張り提灯、扇子、指揮棒等々であり、特段の定めはないようである。
  それにしても蛇の面相はそれぞれに工夫があり実によくできている。悪疫退散の趣旨と思うが、蛇を用いるところや煙硝を用いて白煙や黄煙で祭りを盛り上げるところは九州的である。長崎に近く中国の祭りの影響があるのだろう。純日本的な博多祇園山笠や浮立などとは異なる特異で勇壮な祭りである。-平成17年7月24日-