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若狭ノート | |||||||||
若狭の秘仏(中山寺の馬頭観音)−福井県高浜町中山− | |||||||||
杖を曳き仁王門をくぐり石段を上ると境内。眼下に若狭の海岸線を望む絶景地に寺はある。 師走の時雨は冷たい。街の要所に除雪車が待機する季節なのだ。 ひっそりとした境内にムクロジがその頂にわずかに実を残し、シイやツゲの大木が虚空を衝き、枯れたキンランが吹きつける木枯らしに耐えている。 境内の左手に本堂を望む。5間4間の檜皮葺入母屋づくり、すっきりとして簡明な美しさがある。建築年代は明らかではないが、外陣を1間にとり、蔀戸と連子窓を併用していて室町時代の建築とする見方もあるが虹梁・木鼻のつくりなど眺めていると鎌倉期の建築とみることもできるだろう。寺では内陣の1間厨子に座います馬頭観音菩薩像や山門(仁王門)安置の金剛力像をいずれ湛慶作と伝えており、本堂とともに鎌倉期の中興の祖・覚阿法印によってもたらされたものと推することもできるのである。 馬頭観音菩薩像は秘仏。体高は79.3cm。平成7年に開帳されており次回は平成40年という。厨子前に江戸期に小浜の仏師によって製作された前仏が祀られており、秘仏とほぼ同形という。参拝者はこの前仏によって秘仏の姿を想像することができる。 菩薩中、馬頭観音は極めて異形。不動明王のごとく憤怒の形相で怒髪天を衝いている。頭上に白馬の頭を載せたこの異形の菩薩の憤怒相は慈悲の方便の一つと説明されているが、西国観音霊場33カ寺中、馬頭観音は青葉山中腹にある丹後の松尾寺のそれひとつである。丹後、若狭には馬頭観音を祭る寺が多い。水難に合うと馬が岸まで押して助けてくれるという信仰が若狭一帯にあるのだと、寺の人はいう。 遠く日本海に目を転じると、消波ブロックを波が叩き、もうもうと白煙を上げている。この海に馬頭観音の慈悲にすがろうとした若狭、丹後の人々の願いがよくわかる。内陣からでて下界の空気に触れると木枯らしが冬籠りの季節を知らせている。−平成25年12月−
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