若狭ノート
早瀬残照−福井県三方郡美浜町早瀬
早瀬川
早瀬の町並み
早瀬の町並み
早瀬の町並み 背後に弥勒山
久々子湖のバン
三方五湖展望所からのぞむ
 眼下に三方、水月、菅、久々子、日向の三方五湖が浮かんで見える。五湖は三方断層上の山脈が古生代に沈降してできた陥没湖。
 昭和43年にレインボーラインが完成し、梅丈岳(標高400メートル)山頂に展望台が設けられた。ここから五湖の景観が俯瞰できるようになり、私たちは故人が ‘若狭なる三方の海の浜清みい往き還らひ見れど飽かぬかも〈万葉集〉’ と詠った湖沼の景観を居ながらにして望見できる高台を得た。訪れた日、湖面はバン、キンクロハジロなど無数の冬鳥が羽根を休めている。久々子や日向は日本海に直結する塩水湖。三方湖は淡水湖。隧道や川によって湖は連結されたが、五湖それぞれの顔をもち、塩水濃度が異なり、生息する魚族の種類も異なる固有の生態系をなしている。イチモンジタナゴやナガブナなどの棲息に欠かせない湿地帯も貴重。湖は2005年にラムサール条約に基づく湿地として登録された。
 久々子湖は早瀬川によって日本海に直結する湖。五湖の湖水の水無月神社出入口に当り、早瀬川のほとりに水無月神社(日吉神社の御旅所)が鎮座する。早瀬の水月様と崇められ夏の例大祭は近在にきこえる渡御祭の舞台となる。早瀬は夏季には海水浴で賑わうところ。
 早瀬は古色の漂う落ち着いた街。早瀬浦三宅彦衛門酒造所の蔵はこの地区にある。街通りにはナマコ壁の倉、高く立派な石垣は農機具を商った大店の残影。ささやかな街に二つの寺が並ぶ。浜では鰆の仕分けに余念ない婦人たち。漁港前に鮮魚の寺川商店がある。店先にハマチやアジが並ぶ。鮮度は特級だ。ハマチの脂ののりは12月初旬頃がよく、一夜寝かせて食すると美味さが増すという。

 日本海の干満差は最大50センチにも至らず微弱である。有明海の干満差数メートルとは雲泥の差がある。しかし早瀬漁港の岸壁に立つと確かに潮騒が聞こえる。正午過ぎ、ザーザーと潮の音が聞こえる。音をたどるとは総延長200メートルほどの早瀬川に行き着いた。満潮時に日本海から久々子湖に流れ込む潮の音だった。川の出入口に交通信号機がある(写真上)。幅約30メートル、湾曲した流路は見通しも悪く、船の離合に危険が伴うのだろう。まったく稀有なものである。海上安全の趣旨から表彰ものの配慮と思わざるを得ない。
 早瀬川は宮津の回転橋とはまた違った趣があり、三方五湖訪問の際には早瀬を散策し、このささやかな川の趣に親しむのもよいだろう。−平成25年12月−

富山山河選トップページへ戻る