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クジラ岩(伊予の名礁)−西予市三瓶町− |
宇和海の東岸に八幡浜、三瓶、蔵貫、皆江、下泊、田之浜・・・の町が南北に連なる。海岸線はリアス式海岸をなし、岬、岬の出入りが美しい。
しかし海浜を縫うように走る国道378号線の整備は遅々としており、特に三瓶町皆江〜明浜町田之浜間(いづれも西予市)は名ばかりの国道。杣道の印象があり、天上はウバメガシに覆われ、暗くかつ狭い。アスファルト舗装がなされているもののガードレールもない険しい道が蛇行しながら南下する。
この辺りは松山から遠く離れ、過疎化が進み県民の関心も薄れつつある地域であるのだろう。時折、通り過ぎていく軽トラのほか静寂を破るものはなく、青い空と海の間隙にミカン畑が細長く伸びる。
人々は遠く、岬、岬に或いは岩礁や大岩にまで名前をつけて自然を拝みまた、それらをヤマダテの標として自然の中に生活が溶け込んでいる。
海岸線沿いに国道378号線を南下して三瓶を過ぎると右手に須崎半島がみえる。付け根に周木の集落がある。この辺りが愛媛県下のカワウソの最後の確認地だ。半島は遠目には観音様が仰向けに寝たような姿に見え、古くから「寝観音」と称され漁民の信仰心を育んできた。厳つく見える観音様の横顔は飛鳥大仏(奈良県明日香村飛鳥寺)を彷彿とさせ、夕焼けに染まる姿に接するとひとりでに手が合わさる良い風景の中に寝観音はある。その半島の先端は公園化され、巨大な観音像(須崎観音)が立ち、訪れる人の多いところだ。
くねくねとしたリアス式化海岸を下り蔵貫浦を過ぎると、皆江集落に至る。集落のはずれにクジラ岩(写真上)がある。なかなかの名礁で釣人の絶えないポイントである。
この辺りは南予らしくて実によい海景がひろがっている。私は近くを通りかかるといつも磯に下り、クジラ岩の背中に乗って一休みするようになり半世紀が過ぎた。
孟夏のころクジラ岩の手前の岩場にゴーロ(オニユリ)が咲き、クジラ岩の背にハマナデシコ(写真)が咲く。フジナデシコとも言い花色が美しい。漁船が行きその向こうに須崎半島が霞んでいる。
ハマナデシコと同居するようにして咲くハマゴウ。ハマボウとも。暖地の海浜を這う落葉樹。茎は横走し、枝は直立し唇形の花をつける。クジラ岩のそれは岩の割れ目に打ち上がった僅かな砂地に棲息し爽やかな紫色の花をつけている(写真)。葉もみずみずしく美しい。冬、北近畿の神崎海岸などを歩くと雪をかぶりドライフラワーのようになったハマゴウを見かけるが、南予の盛りのそれとはまた別の趣があり私はこの樹が好きである。
クジラ岩の尾の付け根や腹周りに自生し、多数の白い小さな花を咲かせる草はボタンボウフウ。若葉は食用、根は薬用ニンジンの代用となるが南予の人々に食する習慣はない。
クジラ岩は四季折々に花を咲かせ、釣り人や旅行者を出迎えてくれる。いつまでも大切にしたい名礁である。宇和海には美しい海とともに、美しい岩礁や岬がある。−平成24年− |
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