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土佐の日曜市-高知市- |
「土佐の日曜市」。高知城の追手門をくぐり追手筋に出ると、追手門から東に真っ直ぐに延びる大通りに沿って露店が延々と連なる。市民や観光客で賑わっている。通路を中にして数百の店舗が向き合い、テントを連ね、通りの端までゆうに1000メートル以上ある。
腰を屈めて包丁などの打ち刃物を覗き込む者、植木を眺める者、両肩が落ちるほど重そうなビニール袋を下げ、ぎこちなくすり足で歩くご婦人はおせちの買い出し。ひろめ市場の脇道では裕に50センチはあるメジナが店先で口を開けている。目を皿にして覗き込む御仁は遠来の旅人であろう。海の幸、山の幸、何でも揃うというこの日曜市は、日本の忘れ物になってしまったような品物も並ぶ。土佐の農家によってのみ栽培されているという仏手柑から搾った酢に、細く長くくびれ或は平たく屈折した自然薯やシイの実、タヌキの油から馬油まで揃っている。何だか終戦直後から時計が止まったような懐かしさがこの市にはある。ない物はないといわれる市は、年の暮れのせわしさも重なって一層盛況である。
土佐の日曜市は、江戸時代に始まり300年ほどの歴史がある。近年、日本各地で盛んに開かれるようになった朝市とは少し様子が異なり、市の古風を伝えている。売り手と買い手が、膝や頭を付き合わせ、龍馬も楽しんだであろう問答を重ねながら露店を渡り歩き、のんびりと買い物をする風情が土佐人気質に合うのだろう。日曜市は土佐の写し絵である。
追手門のすぐそばに数年前に開設されたという「ひろめ市場」がある。食料品などの売り場や食堂が同居する。食堂は、定食や鮨、弁当などを売る店がロの字に並び、ロの字の中で食事をする仕掛けになっている。衣料品ならぬ店々のメニューショッピングを楽しみながら食事ができる。着想の面白さに加え、土佐の新鮮な魚貝を求めて訪れる観光客も多い。市場で鮨を売る店を覗くと鯖鮨がならんでいる。板コンブを載せた関西風のバッテラとは異なり、背開きにした土佐産のゴマサバが丸ごと1尾乗っている。シャリは醸造酢ではなく柑橘類を搾った酢で合わせてある。刺々しさがなくまろやかで合わせ具合も大変よく美味しい。ホテルで1尾平らげてしまったが、頭と尾は捨てるのだろうか。土佐の鯖鮨は焼いて食しても美味と聞くから、頭と尾を焼いてシャリとともにお茶漬けにするのもいいかもしれない。
日曜市といい、ひろめ市場といい南国土佐の人々は、戸外に出て冬の日を楽しんでいる。うらやましい限りである。-平成15年12月− |
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