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讃岐の岩石(サヌカイト)
サヌカイト(馨石)は、ドイツ人学者のワインシエンクが讃岐で発見し命名した一種の安山岩である。紀伊半島から瀬戸内を経て九州に至る帯状の地帯から産出する。奈良の「二上山」、香川の「五色台」、佐賀の「鬼の鼻山」などがサヌカイトの産地として知られている。石は水晶より固くガラス質である。砕くと鋭利な断面が現れる。石器時代や縄文・弥生時代を通じ、ナイフや鏃などに加工され、讃岐から各地に移出されたであろう。石基の性質が共鳴を起こしやすく楽器としても利用されている。
香川県下には、国分台、青峰、蓮光寺山、城山などサヌカイトを頂く山々が坂出周辺に集中して所在している。石器は、産地近くのムラ、ムラで手軽に使われていたであろう。坂出沖の瀬戸大橋の架橋工事に伴う事前発掘調査において、羽佐島で実に35万点に及ぶ石器類が発掘された。その98パーセントがサヌカイトだった。与島、櫃石島などの塩飽諸島においても、多量の石器類が発掘された。その総数は50万点にもなる。これほど多量の石器発掘例は類例がないばかりか、本邦において発掘された石器の大部分を占めるのではないかと思うほど大量に出土した。
坂出周辺の山は、サヌカイトの埋蔵量も多く海近くの山に産するので、交易にも地の利がある。縄文早期には、地球の温暖化に伴う海進現象によってまず淡路島が四国本島から分断され、次に讃岐−吉備〔岡山〕間の平原地帯が本州、四国に分断され、ほぼ現在の瀬戸内海が形成されたと考えられるから、舟運によってサヌカイト製石器や原石の移出も一層進んだことであろう。
讃岐は、採石現場で同時に製品加工を行うような小規模な産地ではなく、採石場の麓などにサヌカイトを加工する工人集団が存在したとしも不思議はない。石器とそれを生産する工人集団の存在は俄かに結び付け難いが、岩石学、考古学など広範な分野の専門家を動員し讃岐におけるサヌカイトの加工所の探査や移出先の分布などの実証が進めば、讃岐の石文化は一層輝いたものになるだろう。ひょとして畿内を越え東国にまで讃岐のサヌカイトは多量に移出されていたかも知れない。
サヌカイトは火山活動によって地上に噴出したマグマが冷え固まった岩石である。山頂付近に産する。五色台などでは、花崗岩の基盤上に、凝灰岩、角礫岩、讃岐岩質安山岩、サヌカイトが乗り層を成す。五色台の山腹から崖のある山を望むと、剥き出しになった安山岩が摂理を成し切り立つ様子が確認できる。近寄りがたい断崖にへばりついた樹木はバベ(ウバメガシ)。坂出の街を見下ろす山の住人。
80年ほど前、国分台の住人、長尾猛氏によってサヌカイト製の石琴が紹介されて久しい。金属性の美しい音色を奏でるサヌカイトは、叩く部位によって音色が変わる神秘的な石。大変高価なものである。-平成16年-
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