津田の松原−さぬき市
  播磨灘の南で津田湾がゆったりとした弧線を描く。白砂青松の松原が海岸線をめぐる。樹齢数百年にもなる老松が松林の古色をかもし出し、ひと抱えほどもある根が蜘蛛の巣のように地上に這いだしている。地上を覆う松の樹冠は巨大な日傘、樹下は天然のクーラー。松林をふき抜ける風はやがて冷気となって人々を和ませる。 日本の松の頂点に立つような巨樹が集中的に茂る松林はそう多くはない。
  海浜の松原は、古来、防風林や海岸線の保護林として大事にされてきた。津田の松原は、年月を経るほどに見事な巨木となってその景観ばかりか、樹下に集う人々に潤いを与えてきた。松林には女性的な優しさや美しさがある。京都・宮津の「天の橋立」、福井・敦賀の「気比の松原」、鹿児島・志布志の「くにの松原」、佐賀の「虹の松原」など、日本の代表的な松原しかりである。しかし、「津田の松原」はどこか男性的な外観をみせる松原である。幹が太く枝ぶりも、栗林公園の箱松を巨大にしたようなごつごつとした特徴がある。
  巨木には神が宿ると信じられ、注連縄が張られた松が幾本かある。途方もない永い時を経た松は、人々の信仰をも得ているのである。しかし、地元の人に伺うと、マツクイムシなどによる被害がひどく、成長途上の松が2、30本枯死する年もあるという。海浜の松林に限らず松くい虫被害が全国に蔓延して久しいが、くにの松原や虹ノ松原はほとんど被害がない。不思議である。
  公園に「5分間、私を使ってください」と墨書した立て札の前に、「コマザライ」(熊手を大きくしたようなもの。竹製)が立てかけてある。うまいアイデアである。
 はまひるがおは津田の町花。5月には樹下で淡く可憐なピンクの花をつける。越中の入善海岸でひっそりと咲くはまひるがおもいいが、松林の遊歩道脇で人々に潤いを与えるはまひるがおもまたいいものである。