日和佐川の鮎釣り−日和佐町-
日和佐川の釣り  毎年、5月の連休のころ、県下の井関に若あゆの遡上が伝えられようになると、胸を躍らせる鮎釣りファンは多い。ふだん川釣りはしないという人も鮎だけは別という人もいる。食味よし、姿もよい。一生を一年で終える潔さがいいという人もいる。古来、日本人が特別の愛着を寄せた鮎にはまた、さまざまの釣法が考案されてきた。
 徳島の日和佐川の河口付近の鮎釣りは、ちょっと変わった釣法である。セル浮きの下に毛ばりを2本つけアミのコマセを打ちながら釣る。毛ばりの流し釣りが基本になっているが、コマセを打つところはサビキ釣りの発想である(写真上)。20年ほど前、箱根の早川でシラスの餌釣りにアミコマセを打つ光景をみかけたことがあったが、日和佐のそれは餌をささず毛鉤である。10センチほどの若鮎が手返しよくビクに収まってゆく。実にあざやかなものである。膝から下を水につけ、椅子に座ってへら釣りよろしくのんびりと暑い夏を過ごす。日和佐川の河口部特有の釣りは、日和佐の夏の風物詩である。このあたりは、川のりの採集も行われていて、河川環境はすこぶるよいようである。
  アユ釣りの釣法は、コロコロ釣り、ドブ釣り、餌釣り、友釣り・・・等々、釣魚のなかでは最も多様と思われる。鮎の縄張りの習性を応用した友釣りは、日本特有の釣法である。カーボン製の友竿が普及して久しく、さすがにカーボンの太竿を振る人も少なくなりスポーツとしての友釣りが成長を遂げている。毛鉤には、加賀針や土佐針など地域特有の毛鉤が随分多い。水生昆虫に似せる毛鉤は、結局その川に生息する昆虫がいちばん鮎の食欲をそそるわけで、四万十川や吉野川などそれぞれの川ごと、釣の時間帯ごとに最適の毛鉤があるというのもうなずける。
  アユの分布域は広く、南は鹿児島から奄美大島に及んでいるが、南方域では余り釣りの対象魚となっていない。たぶん、苔の状態が食味に影響し敬遠されているのだろう。−平16年7月-   
土釜と鳴滝-一宇村-
土釜  貞光川に沿って国道438号線を剣山に向かって遡ると、貞光町と一宇村の町村界辺りに「土釜」(写真左)と名づけられた滝がある。薄緑色した巨石がほの暗い森で口を開いている。滝の上手から差込む光が岩に反射して、水色を一層青く清冽に染めている。
  落差7bの滝は三段構えになっていて、一段、二段、三段目とそれぞれ深くえぐられた滝壺がある。急斜面をすべり落ちる水が滝壺で砕け泡立つ様は、煮えたぎった釜を見るようである。土釜とはなかなかうまい命名である。緑色片岩の荒々しい断面と澄んだ美しいブルーの岩色が何となくミスマッチのような感じをいだかせるが、見飽きない滝である。
  水圧によって徐々に岩石が侵食され、深い亀裂の中を落下する滝。しかし、岩石は丸みを帯びることはなく、ガラスのように鋭く冷ややかなブルーの光を放つ。私たちは、硬質の岩石が醸す太古の記憶を、この滝に見い出すことができるのである。滝に映える紅葉もまたよいであろう。
  「土釜」から500bほど渓谷の右岸を下ったところに「鳴滝」がある。この滝も三段構えの滝。全長は85b。遊歩道を登ると滝の上部に展望所がある。