除虫菊の花で瀬戸内海の島々が白く染まり、ミカンの花のよい香りが漂う海をゆく風情が消えて半世紀ほどにもなる。 除虫菊の花は、淡くせつなく旅愁を感じる花だった。船窓から眺めると、そのイメージが何倍にも増幅されたものだった。 蚊取り線香からスプレー式の殺虫剤の普及により、因島の春の景色は消えた。因島に三箇所ほどある除虫菊の栽培伝承畑は合わせても30アールにもなるまい。
因島、生口島、大三島・・・と芸予叢島をのんびりと船旅をする楽しみも少し薄れてしまった。
梅雨の頃、重井町の港近くの急斜面では、除虫菊の種取作業が行なわれている。
因島では今、葉たばこの生産に活路を見出す農家がいる。最盛期に葉たばこの平均作付面積は二反であったが、いまはその十倍、二町歩にもなるという。人口減が皮肉にも農家の規模拡大につながったというべきか。青々とした葉たばこ畑に淡いピンクの花が咲いている。よい風景である。−平成18年6月− |