芸予叢島は、瀬戸内海の多島美の極致。島々が重なりあい或いは連なり、遠目には陸続きのように見える島々も海道をゆくほどに、島と島との間隙にきらきらとした海がひらけている。
上蒲刈島、豊島、大崎下島が並び、その南方に斎島がある。それらの島々に囲まれた海域は斎灘、冬季に北極圏から群れをなし飛来するアビの海だった。鵜に似た暗褐色のこの鳥を漁師はイカリ鳥と呼んで、タイやスズキの一本釣(イカあじろ)の友としてきた。
イカあじろは、アビと魚族の習性をうまく利用した天然の漁法である。イカカナゴの群れの上に着水したアビは、海中に潜りイカナゴを補食する。驚いて海中深くに逃げるイカナゴを待ち受けて、タイやスズキが集まり、イカナゴを捕食する。漁師は櫓を漕ぎ静かにアビの群れに近づき、イカナゴを追って海面近くにまで浮き上がったタイやスズキを釣る。なんともうまく自然の摂理に従って、イカあじろは行なわれてきたのである。
斎島のイカリの鼻にアビをみつけると、漁師は漁場近くでエンジン舟から手押しの櫓舟に乗り換えて釣りをしたという。豊島の西海岸に雀礒という小さな磯(写真上)がある。この礒周辺もかつてはイカジあじろが行なわれた海面だ。しかしいま、飛来するアビは少なく、漁船も魚群探知機を装備した近代的な船に変わった。「最近、カワウがずいぶん増えてアビは少なくなりました。姿はみかけますが、島には近づきません。」と地元の人。自然界の異変も微妙である。イカジあじろの復活を夢見て、漁民はアビ漁の漁業権を更新し続けているという。
島々の岩場にはアビを供養し、豊漁を祈願してアビを祀る祠がある。豊島には、アビ神社といわれた室原神社が鎮座する。神社の境内にホルトノキの群落がある。神社横のループ橋から眺めることができる。−平成18年5月− |