硫黄島は鹿児島の南方100キロメートルほどの海上に浮かぶ、人口150人、周囲30キロメートルほどの島である。
硫黄港から流れ出る茶褐色の一筋の海面は次第に濃く広く港を染め、港が火口の上に浮いているかのような印象を受ける。島の東部で硫黄岳(704メートル)が白煙を上げ、島周りのところどころから染み出たマグマが海面を染め、いまなおこの島が活きた火山島であることを意識させる。
島の集落は、数十メートルはある長い断崖の奥に開かれた硫黄港にへばり付いてある。その集落から見える「岬橋」に立つと、硫黄岳、その手前の稲村岳、稲村岳麓の集落が俯瞰できる。島一等の眺望であろう。
硫黄島の先人は、2月、8月の航海を戒めた。しかしこの日、沖はなぎ猟師が一人、岸壁に船を着け刺し網をあげている。ワカナ(メジナ)、ブダイなどが網の中で跳ねている。浜近くのアコウやガジュマロのたもとで、お年寄りがのんびりと世間話に花を咲かせ、道端の椿の下では孔雀がまどろんでいる。島には、地元の子供や子供留学生、里親の子供が20人ほど生活する。硫黄島の自然はまた子育てに大変よい環境を提供しているのだろう。青々とした稲村岳の麓で順風の時が静かに流れている。 |