九州絶佳選
大分
富貴寺−豊後高田市蕗−
 富貴寺(ふきじ)。この美しい名をもつ古刹の境内で阿弥陀堂がひっそりと悠久の年輪を刻んでいる。阿弥陀堂は、こじんまりとした三間四間の榧(かや)造りの和様の建物。廻り縁が付されている。この軽やかで優美な大堂が
闇緑の鬱蒼とした樹林を払いのけ、淡い光を浴び、四周の森を凌駕する。平安時代の作。西国唯一の阿弥陀堂である。養老2(718)年、仁聞菩薩の開基と伝えられる。
 国東半島は、その中央に聳える両子山の周囲に実に多くの名刹を配している。この寺もまた国東仏教の歴史をさりげなく伝え、地区の人々に四季折々の安らぎを与え続ける。
 'きれいだな 秋のもみじ 富貴寺様’ <田染中2年 大江浩貴>
 門前に地元の中学生の句が木柱に大書してある。人々の寺への敬意と親しみがにじんでいる。よい句である。
 参道上り口の両側に2メートル余の石幢(せきどう)や鎌倉・室町時代に造立された笠塔婆、板碑がある。大堂脇には国東塔がさりげなくある。富貴寺の石造物には見るべきものが多い。
 国東は仏教文化が色濃くのこるところ。道端や寺院の境内などで板碑や五輪塔が国東特有の姿して佇む風景はよいものだ。草深い山里に高尚な仏教文化が残る国東は、時間が止まったようなまことに不思議な空間に包まれている。−平成17年8月−
石幢 板碑 国東塔