九州絶佳選
長崎
弓張岳−佐世保市−
弓張岳から望む 佐世保市街の西に弓張岳(標高361b)が聳えている。北から将冠岳、但馬岳と続く山塊のいちばん南に位置し、眺望がよい。東に烏帽子岳(568b、写真下)、南に九十九島、西方に五島列島を望む(写真左)。
 弓張岳の頂上は、所狭しと文学碑が林立する。石碑の詩歌は、どれもうきうきと弾んでいる。絵葉書を見るような溺れ谷が創造する九十九島や山並みの澄んだ景色と西海の明るさがそのような気持ちにさせるのだろう。
      弓張岳はつるなし矢なし ただ空見てる  
      梯子をかけて お天道さんに矢と弦をもらへ 
                    (野口雨情 昭和二年)
 昭和7年春、佐世保に入った山頭火は行乞の成績もよく、よほど居心地がよかったのか佐世保に5日間も滞在している。
サクラ咲いてサクラ散って踊る踊る
佐世保市街−弓張岳から望む レビューも観覧した山頭火。電気ショックを受けたような山頭火の上気した感じが伝わる句である。佐世保は水兵の行交う町であるが、佐世保にはずいぶん自由な雰囲気が当時からあったようである。
 いまなお佐世保は西海の大都会である。人口は長崎に次ぐ二十数万人を数える。烏帽子岳えぼしだけの裾野に広がる市街の景観(写真下)は、のびやかな美しさがある。リアス式の溺れ谷の奥深くで、一時期のベールに包まれた軍港のイメージを払拭して、佐世保はいま一層明るく、ロマンが漂う町であり続けている。−平成18年3月−

野口雨情歌碑

烏帽子岳山麓