曽木の滝−大口市
 鹿児島の北部、熊本と県境を別つ国見山塊の麓に大口市が所在し、市の南端を川内川流が貫流する。「曽木の滝」は鶴田ダムの少し上流にある。幅210メートル、落差12メートルの勇壮な滝である。
 古来、日本人は滝に静寂さを求めてきた。那智の滝然り、日本一の落差を誇る富山の称名滝にすら静寂さを観じてきた。滝水の落下音は静寂さをひきたてる脇役として考えられてきた。
 ナイアガラ瀑布などは、日本人の感覚からすると滝のイメージとは大分異なる。爆心に敢えてボートで近づく行動は、恐怖体験の面白さとしか考えない人も多いであろう。しかし、曽木の滝はそのような滝に対する日本人のイメージを一変するにふさわしいもう一つの滝だ。滝に近づいて観賞するがいい。遠目には平板な堰のように見えるが、10メートル余の空間に水と岩石がおりなす造形が異境に遊ぶ楽しさを提供してくれる。滝周辺の遊歩道などはよく整備されている。滝近くの展望台から眺めることもできる。

 クスノキの風景−蒲生町-
 南国の太陽がジリジリと脳天を焦がすころ、涼風が頬を撫ぜるこの一角だけはまるで別天地のようである。鹿児島市内から北へ20数キロのところに蒲生神社が鎮座する。その境内に巨木がデンと胡座をかいて森を凌駕する。根周り34メートル
蒲生の大クス
拡大
、幹周り24メートル、高さ30メートル。紛れもない日本一のクスノキである。 クスノキのたもとでご婦人が二人。近在の里人であろうか、涼を求めて世間話に花が咲いている。蒲生野の一等の風景であろう。
 それにしても圧倒される巨大さである。わが国の太平洋岸では、自生であれ植樹されたものであれ各所にクスノキを見かけるが、これほど巨大なクスノキには驚きを通り越し神秘を感じてしまう。
 鹿児島には随分、巨木が多い。屋久島の縄文杉、大口のエドヒカンサクラなども日本の巨木の頂点に立つ個体である。気候の温暖さが樹木の成長によい影響を与えているのであろう。しかし、伐期に切りたくなるのもまた木の文化をもつ民族の宿命ともいえる。概して神社により多くの巨木が残る傾向がある。日本人のアミニズムに通ずる巨木信仰が、特に鹿児島では樹木の成長を助けているのかもしれない。