山川町の鰻池の東岸に地獄平という地区がある。集落を歩くと、道路の辻から微かに硫黄の臭いが漂い、民家の庭先から或いは谷筋から至るところで蒸気が噴出し、この集落は温泉の上に造られた集落のような印象を受ける。
地区民はこの恵みを決して無駄にはしなかった。舛で蒸気を集め、これを熱源として煮炊きにうまく活用したのである。「スメ」というこの設備を使って、ツワブキを蒸す主婦が二人、炊事に余念がない。「芋は蒸せますか」と尋ねると、「蒸せないものはありません、何でも蒸しあがります。」とのことである。カマスなどの敷物によって温度を調節するという。家庭にこもらず、世間話などしながら、和気あいあいと炊事ができる。何とも主婦には羨ましいスメではないだろうか。何百年も変わらない生活様式なのだろう。薩摩の谷あいに輝いた生活がある。近くに鰻温泉があり訪れる人も多いところである。 |