表川内の紅梅−阿久根市 |
阿久根市の南部に、深い山の水を集め東シナ海に流入する幾筋かの谷がある。そのひとつ尻無川に沿って細い道を往くと、中流域の谷あいに表川内の集落が開けている。川の左岸に、遠めにも枝振りのよい、盆栽を大きくしたような紅梅が、民家の屋根をこんもりと覆うように庭先で満開の花をつけている。里の春を予兆する絶景である。対岸のお堂の脇では、満開のヒカンサクラにメジロが群がり、そばのお堂で細面の田之神さんが微笑んでおられる。
集落に通ずる一本道は見物客や自動車で溢れ、里はちょっとした花見ラッシュである。毎年、近在から見物に訪れるという御仁は、「梅は剪定しないと花が咲かないが、この梅は余り剪定もしないというのに花をつける、この辺りの梅は五分咲きなのにここは満開、本当に不思議な梅じゃ、風通しがよいのかな」とぶつぶつ感嘆することしきりである。紅梅の根周りでは、「よか梅じゃ、よか木じゃ、福の木じゃ」といいつつ記念写真におさまる人、田圃の畔などに据えてあるベンチで眺める人などで賑わっている。
すっかりこの地方の風物詩となった紅梅は、樹齢90年、樹高8メートル、幹周り2メートルのしだれ紅梅。所有者の若松さんという素封家の善意によって一般に無料開放されている。梅を愛でる人々のマナーも大変よい。この礼儀よさも薩摩の伝統であろう。−平成15年1月25日− |
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