九州絶佳選
福岡
ぼた山の風景−穂波町平恒−
 遠賀川を遡ると、川が碇川と穂波川とに分岐する辺りに穂波の町がある。二つの河川の間隙に広がる平野に、かたちのよい山が浮んでいる。山周りを周回すると、山は3峰あり眺める場所により、ひとつに或いはふたつにみえる。いずれも100メートルを超える山である。春の日、新緑に覆われた山はひときわ美しく平野を飾っている。
 実はこの3山はいずれも筑豊炭田を象徴するボタ山である。石炭の採掘により捨てられた硬石の山である。
 明治、大正、昭和にかけて石炭産業は日本の基幹産業であり続けた。筑豊炭鉱は、その一翼をにない尊い人命を犠牲にしつつ日本の産業を支えてきた。しかしながら、水力ダム、石油、ウラン、太陽電池へとエネルギーの供給源が多様化し、石炭への需要が相対的に低下するなど炭坑をめぐる環境は大きく変わり、昭和40年ごろまでには大半のヤマは閉山されたのである。以来、40年の歳月が流れ、ぼた山は緑なす秀峰に姿を変え、坑道からトロッコを巻き上げたレンガ造りの機台が往時の繁栄を語るのみである。
 「昭和25年ころがヤマの最盛期でした。いちばん賑わった時期でした。今はぼた山を知らない者も増えました。飯塚方面からぼた山を眺めるといいよ。」と、土地の人。ぼた山は、明治期以来の日本の産業発展のモニュメント。歴史を飲み込んで天を衝いている。
ボタ山遠景 巻き場跡