九州絶佳選
福岡
筑前大島−宗像市大島−
大島フェリー
大島フェリー
 宗像市を流れる釣川の河口に神湊(こうのみなと)が開けている。大島への渡船の発着場があって、日に5便ほどフェリーや客船が出ている。神湊から大島まで所要30分。出航前の桟橋辺りは、島民に混じって中津宮参拝者や釣人、ハイカーなどで賑わっている。観光客に混じって鮮魚店を覗く御仁は、帰りのクーラーの中身を思案中の釣人であろう。
 大島は神湊の沖合い11キロメートル、周囲14キロメートル、人口800人余の島。港を埋める船はイカ釣り船。花瓶になりそうな姿のよいタコ壺が浜に並んでいる。暖流がトベラ、ハマヒサカキなどの海洋性群落を育む島である。
大島港
大島港
中津宮
中津宮
みあれ祭
みあれ祭
小夜島
小夜島
 大島は天照大神の子、湍津姫神(たぎつひめのかみ)の降臨地と日本書紀は伝える。宗像大社は、中津宮の湍津姫神と大島の北西49キロメートルの海上に浮かぶ沖ノ島(沖津宮)の田心姫神(たごりひめのかみ)、九州本土(宗像市)の辺津宮の市杵姫神(いちきのひめのかみ)を奉斎する三宮の総称。全国6000余社の総本社である。毎年10月1日に宗像3姫神が辺津宮に会する「みあれ祭」(写真左下)の神事がある。大島から辺津宮まで、田心姫神と湍津姫神が海上行幸する絵姿は、玄界灘のまことに荘厳にして雄大な祭りの圧巻である。御座船を先頭にして七浦の数百隻の漁船が奉祝の旗をなびかせ大島から地の島、神湊へとお供する。
 大島の中央に聳える山は御嶽山(標高224メートル)。頂上に中津宮の奥社御嶽宮が建っている。山の四方に尾根が伸び、厳しい波頭に洗われた海岸線が玄界灘に映える。
 大島の南東部に開けた港の近くの浜に、姿のよいこじんまりとした小夜島が浮かぶ。‘浜千鳥 声うちわびて大島の 波の間もなく誰を恋うらん’ 小島を前にして筑紫を旅した宗祇も少し緊張気味である。小夜島の美しさゆえであったろう。
 島の北東部の「加代の岬」(写真下)は藩政期の流刑地。奇勝が過去を包んで潮騒が聞こえるところ。島の北部の断崖に建つ社は沖津宮遥拝所。沖津宮の建つ周囲4キロメートルの沖ノ島は禁忌の島。見たことを口にするのもはばかれる島だった。神湊から大島、沖ノ島、朝鮮半島に通ずる海道の最北端の島。宗像族が海路を開き、ヤマト王権が尊んだ島である。沖ノ島の祭祀遺跡から12万点に及ぶ遺物が出土したことは私たちの記憶に新しい。しかし、年に1度の大祭以外に今なお一般人の沖津宮参拝の機会はなく、厳しい習慣を今に伝えている。参拝が叶わない人々は、大島の遥拝所に詣で沖津宮参拝を果たすのである。
 遥拝所の西に美しい海岸線が連なる。風車が回る丘や神崎灯台辺りから眼下を眺めると、岩礁に白波がはじける絶景がある。島のところどころで牛が草を食む。この島には絵葉書になる何枚もの風景がある。−平成17年7月−
大島漁港
大島漁港
加代海岸
加代海岸
風車の丘クリック
風車の丘
沖津宮遥拝所
沖津宮遥拝所
大島北海岸クリック
大島北海岸
大島北海岸クリック
大島北海岸
 奈良盆地の三輪山の麓に、三輪山そのものを御神体とする大神神社(おおみわじんじゃ)がある。御神体である三輪山は、いわば森羅万象を司る神として認識され、ヤマトの王権の拡張に伴い各地に大神神社が分祀されている。この三輪山の神は大己貴命(大国主命)の和魂として観念されている。
  ところで、福岡県朝倉郡三輪町弥永(写真右)にやはり大神神社(大三輪神社)という社がある。筑後川の支流草場川右岸の山裾に鎮座する。流域の甘木、楢原、菩提寺、馬田など14村の産土神であり、夜須郡の惣社。土地の人々は大神おおがみ神社をなまって「おんがさま」と呼ぶ。実はこの社は、奈良の大神神社と同じ大己貴おおなむち命(大国主命)を祭神としている。果たして、奈良の大神神社の分祀(勧請社)と見てよいものだろうか。延喜式の神名帳では、奈良の社は「大神神社」、三輪町弥永の社は「於保奈牟智神社」と表記されている。於保奈牟智神社を奈良から勧請した記録や伝承もなく土地の人々は、奈良の大神神社より古い社ではないかといっている。
 奈良の大神神社の神体山三輪山の山中に、三輪山祭祀の最重要部に当たる磐座(いわくら)が三箇所ある。それぞれ奥津磐座、中津磐座、辺津磐座と称えられているが、これらの諸神はすべて宗像三姫神の名とおなじである。日本書紀は三姫神は最初に筑紫の地に降臨したと伝えている。三輪町弥永の於保奈牟智神社の創始を確定することはできないが、神体山三輪山の祭祀遺跡の年代を遡るのではないだろうか。北部九州から東に移動してヤマト王権をたてた人々が、筑紫の神々を合祀したところこそ奈良の大神神社であったのではないだろうか。筑後川流域ののびやかな平野を歩いているとそのような感慨が湧き出すのである−平成17年7月−

大神神社(福岡県朝倉郡三輪町弥永)
大神神社 大神神社
鳥居(大神神社の石額が
掛かる)
大神神社の拝殿