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福岡 |
柳川の風景 |
ついかがむ 乙の女童影揺れて まだ寝起きらし 朝の汲水場
<北原白秋> |
故郷はなかなか語りづらいものだ。しかし、白秋は異郷にあってもいわば写真のネガたる故郷・柳川の日常の風景を印画紙に色あざやかに焼き付ける名人であったばかりか、語る以上に能弁に、詩情豊かに故郷を詠った人だった。
三柱神社の門前に架かる太鼓橋のたもとに、川くだりのどんこ舟の乗船場がある。傍らに明治時代の料亭・懐月楼の建物がある。今は松月文人館となっていて白秋ゆかりの資料が展示されている。4、5人の客を乗せたドンコ舟が僅かに左右に揺れながら滑るようにゆるりゆるりとクリークを往く。網の目のように巡るクリークの水辺は、汲水場(くみず)あり、菖蒲の緑あり、しだれ柳あり、飽きることはない。トモで棹差す船頭の影がクリークに長く伸び、波紋がゆらゆらとやがて川面に消えてゆく。汲水場に女童ならぬ釣り人が一人、静かに糸をたれている。
クリークの岸辺に小道をゆく童たちの姿が見える。背後の民家は武家屋敷。「ほんまにええ景色やなぁ〜」と同舟のご婦人の訛もなつかしく、レンガ色した倉庫や漆喰のナマコ壁など古色が漂う岸辺の景色を眺めるほどに、満開のセンダンの樹下をドンコ舟はゆらりゆらりと滑ってゆく。
1時間10分ほど舟に揺られ終点の沖の端という舟着場につく。水天宮が舟着場に鎮座している。芝居やお囃子が演じられた三神丸(舟舞台)が浮かべてある。5月の大祭(3、4、5日)が終わったばかりの余韻が漂う舟着場である。
沖の端は、ウナギ、ドジョウの料理店、食堂、鮮魚店が軒を連ね、柳川の顔がみえるところ。鮮魚店には、ムツゴロウ、ワラスボ、ウミタケ、アカガイなど有明海の特産物が店頭に並んでいる。昼食にうなぎのセイロ蒸しを食す。
沖の端近くに北川白秋の生家や戸島家住宅(武家屋敷)がある。お花(旧立花家の下屋敷)も人気スポットである。 |
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