九州絶佳選
佐賀
シロバナタンポポ-唐津市-
  廃れたる園に踏み入りたんぽぽの白きを踏めば春たけにける 
                               <白秋>
 春の野に淡い黄色のタンポポが小道に斑をなし、ほのかな香りを放つ風景の中に故郷はある。近年、そうした故郷の風景も次第に里道の舗装や宅地化によって消えつつあり、もはや脳裏に積もる印画紙の一枚でしかなくなった。加えて、繁殖力の旺盛な西洋種のタンポポの蔓延によって、行き場を失った日本種のタンポポは遠く人里離れたところで咲くいわば希少種のような印象すらするのである。
 北原白秋もまた、花の色香にこの世を映した歌人だった。「・・・たんぽぽの白きを踏めば・・・」もそうした歌のひとつである。白秋の歌ったシロバナタンポポは、特に西中国山地や九州の野原でよく見かける花である。もっとも、都市部では少なくなっているのであるが、郊外などではしばしばシロバナタンポポを目にすることができる。
 虹ノ松原が見える唐津の有料道路近くの丘にシロバナタンポポの一叢があった。タンポポの白と長く延びる松の緑が九州の春にはよく似合う。 −平成17年4月-