九州絶佳選
佐賀
葦辺の館(横武公園)
 佐賀平野の麦秋が過ぎ、クリークに水草が浮き菖蒲の花が咲き始めると田植えが始まる。いったいに県下では二毛作が盛んである。大麦、小麦の刈り入れのころ、平野のところどころで立ち上る煙は麦株を焼く煙。田植えが迫っている。
 神崎町の田園にクリークが巡る横武公園がある。菖蒲がクリーク周りを美しく飾っている。公園の一角に葦葺きの民家がある。民家は、中二階のクド造りの木造住宅。玄関から土間に入るとひんやりとして心地よい。丁寧に葺かれた屋根裏は、民芸的な美しさもある。
 この地方特有の葦葺きクド造りの民家も近年ではめっきり数が少なくなった。建築や維持にコストがかかり、新築は諸々の制約もあってもはや消滅寸前の危機にさらされているといってよい。
 日本固有の美しい建築様式を放棄したとき、私たちは郷土、いや民族の誇りをも失ってしまいはしないだろうか。そのような嘲笑を国内外の人々から受けないためにも、この公園に再生され公開されている民家は大変、意義深いように思う。