ハマヒルガオの咲くころ−西予市三瓶町等−
福島やハマヒルガオととも寝かな 〈芳月〉
ハマヒルガオ ヒルガオ
 5月下旬のころ、四国地方ははやばやと梅雨入り。宇和海に迫る山地ではシュンランの花が過ぎ、卯の花が咲き、センダンの薄紫がアップリケのように山肌を染めるころ、山腹のソラマメ畑や蔬菜畑にヒルガオが咲きはじめ、崖下の道路ばたではガードレールとコンクリートのわずかな隙間にハマビルガオが根をはり淡紅色の小さな花をつけ始めた。目と鼻の先には福島という名の小島が浮かび、養殖イカダが島周りを埋め、遠く高島が煙ってみえる。人も植物も梅雨の晴れ間は貴重な時間だ。日が射すと、ハマヒルガオもヒルガオもしぼんだ花を一斉に開き、光を浴びてまどろんでいるように見える。
 自転車でツーリング中というアメリカの青年が二人、ハマヒルガオが咲く海岸線を行く。三瓶、周木を経て八幡浜に向かうという。−平成23年5月−
マルバウツギ−西予市三瓶町等−
マルバウツギ(背景は宇和海)
マルバウツギ
マルバウツギ
 ウツギ(卯の花)は初夏の花。古歌にも多くひかれた日本の初夏を代表する花である。うつむき加減に咲き、かすかな音にもはらはらと散る、かよわな印象を抱かせる花である。
 宇和海沿岸の山地にもウツギはずいぶん濃厚に分布する花である。5月下旬ころがみごろ。
 ウツギに負けず劣らず、マルバウツギ(写真右)も競うようにして初夏の山野を白く彩る花だ。暖帯を好み関東以西の海岸部の山野が敵地らしく、宇和海の山野を歩くとウツギと同等以上によく見かける花である。ごく小さな花。アケボノソウほどの大きさである。上向きに咲き、10本の雄蕊が線香花火のように八方に広がり、元気良さを感じる花である。虫眼鏡などで観察すると花弁が美しい花。 
  卯の花や妹がとなりのマルバ草競いて散りぬたそがこえ
                              〈芳月〉
 マルバウツギはウツギとともにユキノシタ科の植物。その白さから月夜に映えるものらしく万葉集に‘五月山 卯の花月夜 霍公鳥 聞けども飽かず また鳴かぬかも ’(巻10 1953)と歌われている。ホトトギスは夜鳴く鳥のように歌われているが、私は夜にこの鳥の鳴き声を聞いたことがない。歌の作者は「聞きなし」を違えたか、ホトトギスの渡りが卯の花が咲く季節と一致するところから、初夏への期待感を卯の花とホトトギス(初鳴き)に込めものか。私はこの歌はどうも実見ではないように思う。古来、卯の花とホトトギスは初夏の象徴であり、大伴家持も‘卯の花も いまだ咲かねば ほととぎす 佐保の山辺に 来鳴きとよもす 〈万葉集 1477 大伴家持〉’とうたっている。小学唱歌では‘卯の花の におうかきねに ほととぎす 早も来鳴きて しのび音もらす 夏は来ぬ’〈佐々木信綱作詞〉と歌われる。いずれも初夏への期待を込めた抽象詩歌のように思われる。そのように初夏は待ち遠しく、身も心も軽くなる季節なのだ。−平成23年5月−