渡江の歌舞伎くずし−明浜町渡江−
  宇和海の法華津湾の北海岸に、渡江(とのえ)という集落がある(写真右)。この集落もまた、宇和海沿岸の集落がそうであるように半農半漁の集落である。耕して天に至る石垣の棚田で柑橘類を栽培し、浜でシラスを干す風景は、南予の典型的でよい風景である。
 近年、シーサイド・サンパークが開園され、海水浴や温泉、バンガローなどが整備され、周年、訪れる人も多くなった。明浜はまた、農漁村の古典的芸能を今日に伝える文化の香りがするところ。俵津文楽や盆踊りで演じられる渡江の歌舞伎くずしなどがよく知られている。
 8月14日、渡江の盆踊りが浜の広場で行われた。広場中央に柱を立て先端に竹飾りを結わえた簡素な会場で、豪華絢爛な衣装に身を包み、歌舞伎くずしが演じられた。都合20組、出演者は40人余。2〜5人が1組になり、忠臣蔵、吉野山道行場、奥州安達が原、鎌倉三代記、三番叟、曽我兄弟、水戸黄門等々、懐かしい芝居の名場面が、口説きに合わせて演じられた。顔や、手首に白粉を塗り、六方を踏んで見得をきる。名の通りまさに歌舞伎くずしの熱演であった。阿波の鳴門、さんさ、佐倉宗五郎など口説きも多様である。明治時代の初期から中期ころまでには地域に定着していたのであろう。
 子供から大人まで、役者から裏方まで集落の人々が全員参加の盆踊りは、この集落のコミュニケーションのすばらしさでもある。隣町の三瓶町皆江集落にも少し規模等は異なるが歌舞伎くずしが伝承されている。−平成17年8月−