重層うだつの町通り-美馬郡貞光町-
 吉野川の主だった支流は鮎喰川、穴吹川、貞光川、祖谷川など大体、吉野川の右岸(南岸)に集中し、それらの河川はみな剣山系に源流がある。
  貞光町の中心街は、貞光川が吉野川に接する辺りに発達し、一宇街道沿いに長く延びる中央通りがとりわけ繁華である。町の北方を仰ぐと、阿讃の天空に冬の陽を浴びきらきらと光る人家が見える。
  貞光町は、古くは木綿や麻の生産地として栄え、藩政時代には葉たばこの集散地として栄えたところ。商家の重層(二層)、瓦葺のうだつが往時の繁栄を偲ばせる。重厚なうだつに施された「こて絵」は、商いの繁盛に願いを込めたものであろう。単層のうだつも随分あるが、みな瓦で葺かれている。通りにうだつが幾重にも連なり、人が行交う風景は吉野川が育む文化だ。人々の生き生きとした生活がある。自動車の通行も頻繁である。
  市街地の中心部に、「まちなみ交流館」や「旧永井家庄屋屋敷」がある。交流館には、貞光町縁の民俗
資料等が展示されている。旧永井家庄屋屋敷は木造茅葺の建物。屋根に丸みがあり、四隅が少し反り、四方に瓦葺の庇が回してある。阿波独特の美しい造りの住宅は、民芸的な美しさもある。中央通りと交差する駅前通りに「貞光劇場」がある。木造二階建て、昭和7年の建築である。脇町の「オデオン座」(昭和9年)とほぼ同時期の建築である。戦前、上原謙と田中絹代の「愛染かつら」や山田五十鈴の「新妻鏡」などが上映されると、観客が列を成した。徳島市籠屋町の歌舞伎座(写真左)が取り壊されて久しい。跡地に徳島松竹(映画館)ができたが、こちらも過日、閉館になった。
  貞光の町は、古きよき時代を今日に伝える町。タイムスリップしたような安らぎのある町である。-平成16年12月-