ドイツ館−鳴門市大麻町桧−
鳴門市ドイツ館
ドイツ橋
  大麻山の南麓、鳴門市坂東の地に「鳴門市ドイツ館」(写真左上)が建っている。近くに阿波一ノ宮・大麻比古神社や四国88箇所第1番札所霊山寺があり、鳴門の古色をとどめるところである。
 第1次世界大戦中、この地に俘虜収容所が設置されたのは、80数年前の大正6年だった。香川県下の収容所が統廃合され、分散収容されていたドイツ兵俘虜約1000名がこの地に収容されたのである。俘虜収容所長・松江大佐の下、俘虜と住民の敵味方を越えた付き合いがはじまった。ドイツ兵はキャベツ、トマトなどの野菜や栽培、バターの製法などを住民に教え、音楽を愛好する彼らはオーケストラを結成し、ベートーベンの「第九」交響曲を合唱付きで全曲演奏したのである。坂東の地で、わが国で最初の「第九」が鳴り響いた記念すべき一瞬だった。ドイツ兵は、3年間の俘虜生活で100回を越える演奏会を野外ステージなどで開いた。
  鳴門市では、毎年6月1日を‘第九の日’と定め、この日に一番近い日曜日に演奏会(写真左)を開いている。「第九を歌う会」の連合会も発足して久しく、年々、第九の輪が全国に広がっているという。
  ドイツ館は、ドイツ兵と住民の交わりを記念する親善交流のモニュメントとして鳴門市によって建設され、数年前に新館がオープンした。ドイツ兵の資料などが展示されている。
  ドイツ館の東側に大麻比古神社がある。鬱蒼とした社叢のなかにドイツ橋と呼ばれる石橋が2橋架けられている。いずれもドイツ人俘虜によって架けられ、ひとつは境内の西を流れる小さな谷に(写真左下)、もうひとつは本殿裏の池にメガネ橋が架けられている。境内の樹下に故郷の原風景を刻み、異国で暮らす淋しさもまぎれたことであろう。大麻比古神社参拝の折にはこれらの橋なども見学され、平和の尊さを実感するのもよいであろう。−平成16年12月−
渓谷を往く(祖谷の七曲)-三好郡池田町-
小便小僧の立つ風景
ボンネットバス
 吉野川の支流・祖谷川は、剣山(標高1955b)西山麓の源流から重畳を成す山塊をえぐりながら、ゆらりゆらりと流下する。昼なお陽の侵入を阻む深いV字峡は、太古の地球の記憶。祖谷峡は、人々を阻み続けた日本の秘境中の秘境であろう。忌部や平家の人々は、この山岳に耕地を拓き、天辺にいたる住家を築き営々として大自然との共存の道を見出している。
  西祖谷山村の久保から北に進み山城村の祖谷口にいたる祖谷街道(県道)を行くと、七曲という断崖絶壁の道がある。中津山(標高1447b)の岸壁に刻まれた道の直下は200bの断崖を成し、谷底で祖谷川の清流がブルーの光を放っている。谷底で鳥が舞い、対岸の国見山(1409b)の断崖を上昇していく。曲がりくねった七つの断崖中、小便小僧の立つ断崖の景観は、祖谷渓の圧巻中の圧巻であろう。涼しげに小便する1b余の童などみていると微笑ましさもある。
  小便小僧の近くの断崖に「祖谷温泉」がある。一軒家のホテルであるが、まさに秘湯中の秘湯というところであろう。ホテルから谷底の風呂に通うケーブルカーが敷設されている。秋の紅葉シーズンには、祖谷街道を行交う自動車も随分多いが、断崖が気になる方は四国交通のレトロバス(ボンネットバス)が利用できる。30年以上走り続け、総走行距離は100万キロにも及ぶという。大変懐かしい車両であるが、同社は同形の車両を2両保有している。バスファンには垂涎の車両である。−平成16年11月−