四国村(四国民家博物館)−高松市屋島−
  『伊予の山深い小田郷で、河野家が穏やかな新春を迎えている。戸口、神棚に輪になった注連縄を飾り、楮(こうぞ)の蒸し釜に幣と藁を通した注連縄がまわしてある。座敷の床の間には、大国主大神の軸を掛け、串柿、橙を載せた鏡餅が飾ってある。主人は、座敷の囲炉裏端で赤々と燃える火の番をしながら、年賀客に屠蘇を振舞う。土間の上がり端の茶の間では、奥方が炉辺で年賀客に雑煮を振舞っている。茅葺の大屋根の下で、ロウバイとサザンカが新春のやわらかな陽射しに映えている。
  阿波の剣山麓の一宇村、木地屋の里では、下木家の主人が奥方と二人で奥座敷の囲炉裏端で新年を迎えている。戸口の左右に松とユズリハの葉を飾り、橙をつけた注連縄が上げてある。オセチのこんにゃくは、土間のいも釜に保存してあったこんにゃくだまから奥方が暮れにつくったもの。色は黒いがなかなかおいしそうである。
 平家の末裔、東祖谷山麦生土の中石家では、暮れの頃、あるじが奥方に気になる話を持ちかけていた。所帯を息子に譲り、隠居をすると言いだしたのである。奥方は吹っ切れたのか、暮れの頃、主屋と棟続きの隠居屋を整頓するのだった。
  正月を迎えて、三棟続きの納屋、主屋、隠居屋に注連縄を張り、仏壇に鏡餅が供えてある。中石家の新年を祝うように、屋敷周りで紅葉が赤くもえている。
旧山下家住宅  讃岐の新春をのぞいてみよう。白鳥の五名の郷で、山下家が親子水入らずの正月を迎えている。戸口の左右に南天、松などを飾り、屋内に歳神棚を設けその下に魚、ニンジン、大根などの野菜が吊るされ、柳の枝に餅花が咲いている。ぐるり八間、讃岐の農家は、家は狭いが家族の結束は強いようである。』
  このような新春の光景を想像させる「正月飾り」のイベントが正月8日ごろまで四国村で行なわれている。四国4県から四国村に移築、復元され、公開中の古建築物は、上記の建物を含む民家のほか、小豆島の農村歌舞伎舞台、坂出の砂糖しめ小屋、引田の醤油蔵、三崎の義倉、南予の茶堂など実に豊富で多様である。自然の植生などを活かしつつ民家などがうまく配置されている。
これらの古建築物は先人が育んだ貴重な民俗資料であり、私たちは、居ながらにして古民家等を通じて懐かしい過去を振り返り、若者たちに四国文化を伝承できる。四国村への移築、復元等に協力された人々は身を切られる思いもあったであろう。今日まで家屋を愛しみ保存されてきた四国の隅々の人々に賛辞をおくりたい。
村内には、美術館、わら屋(うどん店)などの施設も整備されている。入村は有料、年中無休。折々のイベントも開催されている。-平成17年1月3日-