ウツボ干しの風景-宍喰町鞆浦-
  魚族には、いろ、かたちの美しいものは食しても美味である場合が多く、逆のものはまずいという思い込みが定着している。したがって、ウツボやマゴチなどは、大方歓迎されないという点においてはなはだ不幸を背負っているわけである。しかし、ホウボウは姿は美しいとはいえないまでも、体色が赤いため鯛の代用として重宝する地方もある。魚族への私たちの嗜好はまったく不思議な先入観に左右されているが、ウツボやマゴチなどは、いろ、かたちは悪くても食して美味な魚の代表格であろう。
  ウツボは、暗褐色のまだら模様の皮膚に、頭部が大きく盛り上がったどう猛な風体をした魚である。20年ほど前、房総半島の勝浦の磯でウツボを見た日には食欲が失せてしまった。その後、高知市内の居酒屋でウツボのたたきを食して以来、すっかり病みつきになってしまった。独特の歯ごたえがあって、刺身よし、細かく刻んで揚げてよし、下味をつけ焼いてよしである。阿南、高知、宇和島など四国の南部地方では、ウツボを好んで食する風がある。
  冬の日、宍喰町の鞆浦でウツボを干す風景にであった。干しあがったウツボが浜で寒風に揺れている。なんとも食欲をそそる。海部郡辺りではウツボのまとまった漁獲量があり、スーパーなどでも販売されている。酒の肴としても好評のようである。
  鞆浦の南岸は明媚な浜。公園化されていて、観望客や釣客で周年、賑わっている。−平成16年−
貞光川を往く−貞光町、一宇村−
 吉野川に右岸に貞光川という河川が流入している。吉野川との合流点から貞光川に沿い、剣山に向かって国道438号線を遡る。道は次第に高度を増し、眼下に貞光川がのぞいく。エメラルドル色したグリーンの帯が、細くゆらゆらと蛇行し或いはトロ場や早瀬となって阿波の樹林を美しく束ねている。早瀬の岩陰で、鮎がキラッ、キラッとヒラ打つ閃光は夏の名残り。鮎はまもなく、吉野川本流に或いはダムに落ち一年の短い一生を終える。
  峡谷の両岸に迫る山腹をたどってはるか天上に眼を向けられよ。渓谷の斜面に拓かれた集落は次第しだいに標高を増し、やがて天辺に至る。赤やブルーの大屋根住宅は、ゆるりゆるりと悠久の時空をゆく阿波の箱舟。山塊に溶けて美しい。−平成15年9月−
穴吹川を往く-穴吹町、木屋平村-
 吉野川の支流穴吹川は、剣山(写真下)の南麓に源をもつ全長42キロメートルほどの河川である。河川に沿って国道492号線が通っている。
 川を遡ると、V字峡の中腹に刻まれた道路は次第に高度を増していく。
 雨の渓谷もまたいいものである。森に抱かれた深い峡谷は浄化能力にも優れている。青石の岩盤や河原石が一層みずみずしくみえる。岩石と淵や荒瀬が織り成す穴吹川の諸相に飽きることはない。
  日照をさえぎる深い谷はまた、山里の人々の生活圏を上へ上へと押し上げた。天辺の尾根筋に耕地が開かれ、その周りに見事な人工林が造成されている。高地集落は、概して渓谷の中流部から上流部に発達している。 渓谷の紅葉が僅かに色づき始めた。まもなく紅葉が渓谷を飾る。−平成16年9月−