旧広島地方気象台−広島市中区江波南1丁目−
 広島湾を望む江波山の頂に鉄筋コンクリート造り、二階建、陸屋根のビルができたのは昭和9年(1934年)。昭和62年(1987年)に上八丁堀に庁舎が移転するまで、実に50年余、原爆投下の日にも、休むことなく懸命に測候業務が行なわれた記念すべき建物である。
 玄関のポーチは薄く仕上げられ、柱は竹の子状のものが1本、玄関にタイル張りが見られるなど斬新であるが、窓は細長く、廊下の仕切りにアーチ状の壁が用いられ、二階に通じる階段の構造などは明治期以来のレンガ造り洋館の伝統をしのばせ、古き伝統が捨てられてはいない。第2次世界大戦前夜に花開いた、広島最後の戦前の麗華というべきか。
 昭和14年、ノモンハン事件が勃発し、独ソ不可侵条約調印などによって日本は次第に孤立化し、戦時色が一層強くなると、広島のコンクリート建築の進展も一時、滞ることになったのである。
 いま建物は、広島市江波山気象館として公開され、気象測器展示や各種実験コーナーなどがあり、訪れる人の多い施設である。−平成18年4月−