鹿島の段々畑−呉市倉橋町−
天耕の 峯に達して 峯を越す  <山口誓子>
 呉市の倉橋島の南に鹿島という周囲9キロほどの島がある。人口数百人の半農半漁の島。広島県の最南端に位置し、鹿島瀬戸大橋(写真下)が架かり倉橋島と連なっている。
 鹿島の南部に安芸灘にひらけた宮の口という集落がある。背後の山に傾斜度30度を越える見事な段々畑が築かれ天辺に至る。誓子は詠う。天耕の峯に達して峯を越す、と。
 春5月、先の大戦後間もない頃、瀬戸内海の島々はミカンや除虫菊の花で白く染まった。しかしスプレー式の殺虫剤の普及によって除虫菊は姿を消し、かんきつ類の栽培面積も著しく減少した。島民の老齢化や島外への転出も進んだ。そうした状況は、鹿島など内海の島々のみならず伊予の九島など宇和海の島々や九州の玄界灘の島々でも似たようなものである。−平成18年4月−
 井仁の棚田−山県郡安芸太田町中筒賀−
井仁の棚田 天上山(標高972.6b) の北麓に井仁いにという集落がある。車1台分の幅員しかない1本道を往くと忽然と現れ、のびやかな棚田がひろがる。耕地面積は約13ヘクタール。太田川の支田之尻川が天上山に駆け上る流域にあ所在し等高線に沿って棚田を成している。乱積みの石垣にグリーンの稲田がよくはえる。
 「井仁の農家は平均5反(50アール)ほど耕作しています。田植などは機械でやりますが、畦が曲がっていますので作業が大変です。7、8反耕作する農家は24、5枚の棚田と格闘です。水の見回りにも1時間ほどかかります。」と、農家の人。この苦労が食味のよい棚田米を産む。
 見晴らしのよい高台で日曜市(野菜市)が開かれ、ピーマン、タマネギなど井仁の農産物が販売されている。−平成18年7月−