九州絶佳選
長崎
オランダ坂−長崎市東山手町−
 長崎の港がみえる小高い丘に、洋風建物や住宅が建ち、高い石垣が冬の陽を浴び鈍い光を放っている。冷え冷えとした石畳にその石の数ほどほのかな或いは冷ややかな憎愛の光と影が移ろったであろう坂道はいま、女学生が登下校する何の変哲もない道に見える。
 東山手地区は、安政6(1859)年に新時代の自由貿易港として開港され、ポルトガル、プロシアの領事館や礼拝堂が建つ長崎居留地が形成された場所だ。
 孔子廟から活水女学院前に通じるこのオランダ坂はロティ坂とも呼ばれた。 
 長崎情緒を代表する坂として知られているが、この坂が一躍有名になったのも明治18年、フランス軍士官ロティとおかねさんがひと夏を過ごした愛情物語によるのもと思われる。ロティが著した「お菊さん」は今も世界の人々に読まれている。ロティはおかねさんの背中を押しながら何度もこの坂を上ったという。丘周りにはオランダ坂と名のつく坂道はいくつかあるが、ロティ坂は海を隔てて二度と会うことができなかった二人であるがゆえに、ほのかな愛をはぐくんだ坂として人々の心をとらえてはなさないのだろう。−平成18年2月−