滋賀
三上山(近江富士)−野洲市−
 滋賀県の南部に三上山という標高432メートルの山がある。おにぎり様のビュートをなし、近江富士と称される。山は遠く、琵琶湖西岸の堅田の浮御堂辺りからからもよく見える。近江の代表的な山である。山の西麓に式内社御上神社が鎮座する。
 東海道線或いは草津線の車窓から眺めるこの清らかな山は、旅行く者に何か特別の意味ありげな霊山を意識させる。昔、山は瀬田の唐橋辺りからもよくみえ、俵籐太のムカデ退治の民話がある。唐橋を通りかかった俵籐太が龍女と出会い、三上山に住むムカデを退治したという。
 伝説の橋と山は、この地が古くから天下分け目の要衝であったことを示してはいないか。壬申の乱では大海人皇子軍が唐橋を制し、天武朝をたてた。橋の東方、十数キロの先の三上山は、そうした都に侵入する勢力をムカデとみたものか。近江の長い歴史が伝説の背景にある。
 秋の田を列車が行く。いつまでも残したいのびやかな近江路の山の風景がある。−平成20年10月−