奈良
ハガクレツリフネソウ−吉野郡天川村洞川−
 奈良県・吉野の山中に洞川(どろがわ)というところがある。修験道で名高い大峯山奥駆道に近く、そこは先達にひかれ修験の道を熊野に求める者或いは吉野熊野の高山に向う登山客や温泉客で賑わっている。
 峡谷に沿って細く長くのびる道の両側に二階建ての木造旅館が軒を連ね、この町のなつかしさを一層際立たせる。旅館の玄関先で修験者が旅装をとく姿などを見ると、戦中戦後期にタイムスリップした心地よさもある。この種の和風旅館は京・大阪や南都でも目にすることはなくなった。
 洞川から吉野郡川上村に抜ける道がある。峡谷沿いに狭隘な山道を行くほどに、ハガクレツリフネソウ(写真左)のちょっとした小班に遭遇した。初秋の風にゆれ、渓谷を行く小舟の危うさが深山によく似合う。山中を行く心細さあらわして余りある。紅紫色の本来のツリフネならそうも感じまい。
 ツリフネソウは水辺を好む1年草。釣舟を逆さにしたような花をつける。キツリフネ、エンシュウツリフネなど若干、別種もある。滋賀県所在の余呉湖畔の外周路の脇にツリフネソウの群生地がある。ツリフネソウを観ながら遊歩する余呉湖の散策には紅紫色したツリフネソウがよい。湖とのコントラストを意識するからだろう。−平成21年9月−