近畿風雲抄
奈良
アザミの咲くころ−桜井市穴師 −
‘草深に野見宿弥のみのすくねあざみかな’(芳月)
 アザミは秋咲き、夏咲きのものもある。一般的には、春の花として愛でられる。4月ころイチリンソウが咲き始めると、たんぼ道でアザミが咲きはじめ、やわらかな陽をふくんでいたりする。季節の到来を告げるもうひとつの花だ。季節は移ろい夏が到来すると、道端の草叢に埋もれ目立たなくなるが、アザミに群れる蝶がわずかにその所在を知らせてくれる。人里離れた人屋或いは鎮守に続く杣道に咲くアザミに、不意に深い郷愁を感じたりするのも加齢のゆえであろう。アザミはその形状が女性の眉刷毛(まゆはけ。化粧筆)に似ているところから、眉はけ或いは眉つくりの異名がある。
 蒸し暑い日が続く6月下旬のころ、大和の山辺の道を歩く機会があった。纏向山の麓、穴師社に詣で、同社の摂社・相撲神社の鳥居をくぐり、草いきれのする境内に入ると、ナミアゲハ(アゲハチョウ)があちこちでアザミの花に群れている。春のツツジ、秋の百日草、赤い花は成虫の好物とみえ、狂ったようにアザミに群がる。これもまた、シーズンオフの道歩きの賜物であろう。−平成23年6月−
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