近畿風雲抄
奈良
天の香具山−橿原市南浦町−
大和には 群山あれど とりよろふ 天の香具山 登り立ち 国見をすれば 国原は 煙立ち立つ 海原は 鴎立ち立つ うまし国ぞ あきつ島 大和の国は  <万葉集>
香具山
 標高152メートル。天の香具山。大和三山の一つ。藤原宮の内裏の東方に伏してある山。背後に多武峰が控え、香具山はその端山である。香具山を天降(あも)りつく山として崇め、神聖視したのも、この山が端山という甘南備に似た条件をそなえていたからだろう。記紀神話で語られ、ト占が行なわれ祭器がつくられた山である。大和三山中、香具山だけは火山の痕跡がない。そうした組成もこの山の神秘性を際立たせている。
 香具山はまた、藤原の大宮人が生活を共にし、季節のうつろいを感じる身近な山であった。ときに行き倒れた役民が眠る山でもあったことが人麻呂の歌からわかる。
 香具山は万葉集に13首採録されている。大和三山中、一番多い。これもまた、古代日本の中心であった飛鳥京と藤原京の中間部に香具山が所在し、都人が朝な夕なに眺め暮らす最も愛着のある山たったからだろう。大官大寺(大安寺)跡、飛鳥板蓋宮跡などからも香具山はよく見える山である。飛鳥の田園を北に辿れば、香具山を見失うことはない。−平成21年11月−
ひさかたの 天の香具山 この夕 霞たなびく 春立つらしも
                 <万葉集 1812 春雑歌>
春すぎて 夏来るらし 白妙の 衣ほしたり 天の香具山  
                 <万葉集 28 持統天皇>
草枕 旅の宿に たが夫か 国忘れたる 家待たまくに 
                 <万葉集 426 柿本人麻呂>
※人麻呂歌の題詞に、香具山に屍を見、非慟みて作める歌
  とある。

藤原京
藤原京資料室(奈良県橿原市縄手町178-1)展示資料
大和三山に囲まれた中央部の区画が藤原宮(約1キロ四方)。藤原宮の北側に耳成山(写真右)、西側に 畝傍山(写真中央上のやや右)、天の香具山(写真左)が所在する。
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