奈良
御蓋山みかさやま−奈良市白毫寺−
  しぐれの雨 間なくし降れば 三笠山 木末こぬれあまねく 
  色付きにけり    <万葉集 大伴稲公>
  大君の 三笠の山の もみち葉は 今日けふのしぐれに 
  散りか過ぎなむ  〈万葉集 大伴家持〉
御蓋山 しぐれの雨が、休みなく降るので、三笠山の梢はのこらず色付いてきたよ、と詠う稲公。いやいや、三笠山の秋黄葉もみちば(原文)は、今日のしぐれで散ってしまうのではないかと答える家持。稲公と家持は旅人を父とする異母兄弟。弟の稲公に‘木末こぬれあまねく色付きにけり’と促され、‘散りか過ぎなむ’と自重する家持。暮ゆく秋の気配のなかに、大伴一族の命運を担った家持の自制をうつす歌のようにも思われる。
 三笠山(282メートル)は今日の御蓋山である。若草山に連なる春日山(497メートル)の西に突き出た尖った山。春日山に埋もれ目立たない山であるが、白毫寺辺りから北の辺を望むと、円錐形の山容が現れる。白毫寺辺りには、まだ大和棟の民家を見出すこともでき、古都のよい雰囲気がのこるところである。