京都
閑話百題−コンチネンタル・タンゴ−
 肌寒い小雨交じりの夜、LPレコードで、オーケストラ演奏の「ジャラシー」を聴いた。デンマークのヤコブ・ガーデの名曲である。先入観として、北欧の歌曲には独特の暗さがある。加えて、その憂愁につつまれた暗さに民族の宿命的な寂しさを感じてしまう。スエーデン民謡・「むなしく老いぬ(Solvejgs Lied)」などにはその歌詞に究極の寂しさを感じてしまう人も多いであろう。そしてまた、その対極の明るい調子の歌曲も、総じてすりガラス越しに感じる明るさではないだろうか。樺太よりさらに北に位置する北欧の厳しい自然と民族の活路を国外に求めざるを得なかった風土が、そうした歌曲の土壌となっているのだろう。
 ジャラシーは、作曲されて以来、すでに80年ほど時を経ているが、いつ聴いても新鮮である。タンゴ特有の弦楽器のビブラートの響きに、哀愁が浮かんで消える。パリの都市的雰囲気のある曲目であるが、それも北欧の風土にはぐくまれた哀愁であろう。−平成22年4月−