京都
ユリノキの風景(並木)−綾部市今田町−
 丹波路にユリノキゆかし田植えかな <芳月>

ユリノキ並木(綾部市今田町)
 近畿地方の北部に、由良川の支流・犀川が流れる。本流との合流点近くに私市円山古墳が、上流に茗荷占いなどで知られる志賀郷(しがさと)が所在し、流域は綾部茶の主産地を形成する。この地方では、流域面積において上林川、土師川とともに由良川屈指の支流である。
 犀川流域に今田山の小丘の麓に今田という集落がある。町の東側に犀川が流れ一帯は田圃。例年、5月20日ころがこの地方の田植え時期。犀川土手のユリノキ(チューリップノキとも)が満開になるころだ。犀川の両岸に植えられた40本ほどのユリノキ並木の花が一斉に咲き、かすかな香りが田面に漂う。
 ユリノキは北米原産の落葉・喬木。花はチューリップのようなかたちをしているが、王冠のようにもみえ楚々とした花をつける。樹高20メートルほどの木いっぱいに無数の花が咲き、この木はもうすっかり日本の伝統的な田園の風景に馴染んで美しい。メタセコイアほど一般的ではないにしろ、帰化植物として定着するだろう。 
 わが国では学舎や道路の並木にユリノキを用いる例があるが西日本では珍しく、また河川の堤防上にこれほど多くのユリノキが植えられた例は犀川堤くらいではなかろうか。
 
ユリノキ(綾部市今田町)
関西では大阪府交野市所在の「大阪市立植物園」にユリノキの大木が数本ある。樹齢においてこのユリノキには及ばないまでも、今田のそれは目通し1メートルほどに成長したものも混じり、40本のユリノキが一斉に花をつける景観は実に見事なものだ。グリーン色した花の色が葉の色に溶け込み遠目には花が咲いているようには見えない。樹下に立ちはじめて開花に気づく人もいるだろう。開花時期が農繁期に重なり、幸か不幸か訪れる人も少なくひっそりと咲くユリノキ並木を歩くのもよいものだ。花の咲くころ、北近畿訪問の記念にもなるだろう。−平成24年5月−