京都
トビのいる風景−京都府綾部市−
 秋のころ、黒豆の天日乾燥が始まると、ひがな一日、稲城(いなき)で過ごすトビの姿が丹波路の渋い空に溶け、ゆっくりとした時が流れている。黒豆は丹波の特産。深い霧にはぐくまれ、甘くつやのある黒豆に育つ。農家は田植え前に畦を泥で固め、田の水漏れを防ぐ。そして、泥で塗り固めた畦に大豆や小豆などのマメをまき、稲の収穫が終わると順次マメを刈りとり、稲城や庭先で乾燥させたものだ。収穫したマメは無税であったから、畦道は副収入をもたらす貴重な空間だった。今日、畦に豆を植える農家はなくなった。畦は彼岸花に覆われるようになり、秋の風景もだいぶ変わってしまったが、丹波路にはまだ稲城にトビのいる風景がある。稲城の傍でトビと野鼠が生死を争っている。−平成20年11月−