京都
神崎海岸−舞鶴市神崎−
 由良川が日本海に交わる辺りに神崎の浜がある。その眼鼻の先に船の難所、由良の門(と)が横たわる。曽根好忠は、「由良の門を渡る舟人楫を絶え行方も知らぬ恋の道かな」(新古今和歌集) と詠った。山椒大夫伝説は森鴎外の同名の小説のモデルともいわれ、また安寿と厨子王のそれは遠い日本の懐かしい記憶を呼び起こさせる。こんな歴史と景観に彩られた土地が由良川の河口部に凝縮している。神崎はそのような日本の古典世界を対岸の由良とともに背負ってきた街と言えるだろう。
 神崎は潮のにおいのする町。夏は海水浴で賑わうところ。
 エンジュの花が咲くころ、神崎の浜辺を歩く。ヒバリのさえずりが透き通った青空にさえ、時おり由良川架橋を通るタンゴ鉄道のほか静寂を破るものはない。ハマナスの花が初夏の風にかすかに揺れ、シギが波と戯れる。もうひと月もすればアサギマダラが飛来する。−平成27年5月−