京都
ヤブツバキ−福知山市大江町−
 早春の丹後路を往く。由良川の支流宮川のそのまた細流を往く。渓谷を1里ほど遡ると北原集落が開ける。大江山の千丈ヶ嶽の山麓に開けた集落だ。そこは急な斜面に耕地を開き人々が住みなすところ。棚田の稲木は昨秋の豊饒の証であろう。
 北原集落につづく峡谷沿いの小道に咲いたヤブツバキが早春の陽を含んでいる。谷水が岩に弾ける。傍でオクチョウジサクラ(奥丁字桜)が咲いている。峡谷の対岸に咲く花はヒュウガミズキ、ミツマタであろう。もう2週間もすれば峡谷はヤマツバキの花で彩られる。野辺にはイチンソウが咲く。丹後の早春は実にさわやかだ。
 北原集落から東方に向う山道を辿ると仏性寺集落に至る。途中、人家はほとんどみえない。ヒュウガミズキの一叢がひっそりとした山間を照らす。道沿いに祠を祀り、ヤブツバキが咲く「真名井ヶ池」は天女伝説を伝える池。「かぐや姫」に通じるものがある。浦島太郎や山椒大夫など丹後路には実に多くの民話がある。
 北原集落から2〜3キロ往くと二瀬川渓谷に至る。峡谷わきの急な側道を往き左折すると大江山(千丈ヶ嶽)登山口に向かい、右手の山道を行くと宮津である。沿道にヤマツバキが随分多いところである。−平成22年3月−

 茶花のこと
イチリンソウ ヒュウガミズキ オクチョウジサ
クラ
 茶花は茶席に活けられる季節の花。茶花という花の品種はあるわけではない。春のイヨミヅキにヤマブキ、イチリンソウ。初夏のヤマボウシにウツギ、アザミ。夏のミズヒキにホトトギス、ムクゲ。秋のシュウメイギク、リンドウ、オケラ。冬の梅、ミツマタ、フクジュソウ。近年、茶席にも洋花や栽培品が用いられるようになったが、老いるほどに古来の野草が懐かしくまた、亭主の人柄が偲ばれもしてそこに茶趣という風雅が生まれる。春のころ丹波、丹後を訪ね、イヨミズキ(別名ヒュウガミズキ)やイチリンソウ、イカリソウなどがさりげなく活けてあると、本当に嬉しいものだ。それはまた大江山や弥山など丹波、丹後の名山が育てる賜物である。