丹波の山中に三方を多紀連山で囲まれた栗柄というささやかな集落がある。標高二百数十メートル、県下では最も標高の高いところに所在する。丹波の特産・黒豆の産地。
7月14日、澄み切った青空にトンボが舞い、青々とした稲穂と手入れのゆきとどいた豆畑のコントラストも美しく、栗柄は丹波の象徴的な景観をかもしだしている。
高みから見渡すと集落の南北の端をそれぞれ宮田川、杉ヶ谷川が流れ、河川間の距離は約180b、両河川の中ほどを県道丹南三和線が通る。
人事は日進月歩。自然の移ろいは日々、変化する。しかし栗柄集落は二万年、二河川が生成されて以来、基本的には何も変わらない自然の中にある。
二河川が流れる谷間の北西、鼓峠(県道丹南三和線)が分水嶺になっている。嶺の北側は由良川水系土師川の支流友渕川の源流部。日本海に流下する。南側は加古川水系篠山川、加古川を経て瀬戸内海に流れ出る。したがって平行して流下する宮田川、杉ヶ谷川の二川は栗柄の狭い谷間における河川争奪によって一つの川となって加古川を経て瀬戸内海に流下するはずだった。
しかし、そうはならなかった。杉ヶ谷川は栗柄集落で宮田川と泣き別れ、集落の北端にある観音堂横で突如北に流れを変え、100bほど先の倶利伽羅不動の滝(落差約4b)に落ちると、水流は西に流れ出し、土師川を経て日本海に流下する。いわゆる谷中分水界がこの地に形成されたのである。以来、気の遠くなるような太古の昔から二河川は栗柄で互いに180bの距離に逆らうことなく、相協力して栗柄の水田を潤している。由良川水系にはこのような谷中分水界が6ヶ所あるという。
しかしまた栗柄は洪水と干天時の飲料水の確保に悩み続けた集落だった。かつ洪水は宮田川に流れ込み加古川水系河川の氾濫を助長することがしばしばあったという。2013年、約20年の歳月をかけ栗柄ダム(杉ヶ谷川上流)が完成(竣工)し今、両川流域に平和のときがながれているようだ。−令和7年7月14日− |