九州絶佳選
福岡
御笠の社−大野城市山田−
   思はぬを 思ふといはば 大野なる 三笠のもり
   神し知らさむ
                  <万葉集 大伴百代>
 国道3号線を福岡から二日市に向かうと、大野城市山田というところがあり、三笠(御笠)のもりがある。ほんの僅かな地面しかなく神社の境内にもならないくらいの森である。
 昔は鬱蒼とした森が続き、大宰府を往来する官人がしばしこの辺りで休むこともあったのだろうが、今は森の回りに住宅と道路が迫り、スダジイやモチノキの巨木がかろうじて森であることを主張しているようにみえる。
 遠目には何の変哲もなく消えかかったような森であるが、この森の由来について、日本書紀は、神功皇后が秋月の熊鷲征伐に向かう途中、御笠が飛んだ皇后ゆかりのところとしるしている。したがって、大宰大監の役目を負うていた百代にして、大伴坂上郎女への恋が咎められはしないかと、大いに気になることだと詠うのである。樹下に歌碑が建っている。小さな島や森や丘にまで記紀の顔が見え隠れするところが九州だ。一木一草にも古色が漂っている。
 森の樹木は数は少ないが、スダジイ、モチノキ、タブノキ、エノキ、ヤブツバキ、ヤブニッケイなど種類は豊富である。スダジイ、モチノキは、目通り2メートルは下るまい。これほどの巨樹が残った所以は、日本書紀の古伝が禁忌を伴い地区の人々が手厚く見守ってきたからであろう。この森の植生を観察すれば九州の照葉樹林の標準を知ることが出来る。−平成18年3月−